2012年8月26日日曜日

2050年 シミュレーションと総合戦略(3)

「グローバルJAPAN -2050年 シミュレーションと総合戦略-」
http://www.21ppi.org/pdf/thesis/120416.pdf

 2050年 シミュレーションと総合戦略、最後のまとめは「経済・産業」並びに「税・財政・社会保障」についてです。どちらも近年、ネットの議論を騒がせる大きな問題を含んでいます。一つはTPPへの参加について。ネットではTPP反対が非常に多く、様々な場面で議論されています。TPPによって日本の農業が破壊される、健康保険が潰される、郵貯の資金が吸い上げられる、等々。その多くはアメリカの陰謀という話にされていますが、当のアメリカではTPPがそれほど盛り上がっていないというのは皮肉なことです。それから消費税増税については実施の方向で記載されています。しかし消費税増税をそれだけで論じることはせず、税全体の改革について述べています。

■経済・産業(ビジネス)

 ドミノ効果と呼ばれる現象があります。これは「ある一国が共産主義化すれば、ドミノ倒しのように近隣諸国が次々と共産主義化」するという現象を言い、転じて「次々と連鎖的にある事件が起こる」ことを意味するようになりました。自由貿易圏の拡大についてもこのドミノ効果が当てはまると本資料は指摘します。
 このドミノ効果は、マイナスの方向にも働きます。そのことをもって日本はTPPに参加しないことで自由貿易圏から締め出されるマイナス効果が拡大し、交渉面において不利な立場となると言います。「バスに乗り遅れるな」ではちょっとイメージが良くないですが、そういった危機感があることは確かでしょう。
 勘違いしている人が多いのですが、このTPPはこれからのアジアの成長を取り込もうという意思で経済界は見ています。GDP比を理由に「これは対アメリカの協定だ」「日本はアメリカに騙されている」と論じた学者がいましたが、GDP成長率を無視しているのでナンセンスです。
 本資料における対アジア諸国への観点は以下の2点です。

①安価で多用な財・サービスを輸入し、日本人の生活を豊かにする。
②対外直接投資による「現地化」で、新興国の需要を取り込む。

 まず①について言えば、これはおそらく日本国内のデフレ(消費者物価指数の低下)を加速させるでしょう。その代わりに、日本人の生活水準は向上します。そして②が最も重要な部分で、企業の海外投資を加速させる狙いがあります。

 TPPやFTAなどの仕組みを推進しつつ、本資料ではIFRS(国際会計基準)についても少し言及しています。IFRSは欧州中心に進められた会計の標準化ですが、全世界的に導入を進めることが決められています。日本の会計基準との違いは多く、例えばIFRSにおいては「負ののれん」が認められていません。つまり商習慣に大きく影響するもので、TPPなんかよりも直接的なインパクトがあります。このIFRSについては「自国の利害と世界への調和を考慮しながら、柔軟に対処していくべき」とだけ結んでいます。本題ではないから仕方ないところではありますが、まだまだ混乱が続きそうな印象を受けました。

 潜在的な需要を掘り起こせば市場は拡大する、と若干楽観的な論調が含まれていますが、その内容自体に目新しさはありませんでした。「感性」「洗練性」「もてなし」といった綺麗な言葉が並びますが、どこか「違うな」という印象を持ちました。それよりも「システム」で稼ぐビジネスの方が具体性があり、イメージしやすく好感を持てます。例としては「新幹線の運行システム」「水道の運営機構」などが挙げられていますが、僕としては経済産業省のスマートソサエティ構想や、銀座や新宿といった都市ブランドの売り込みに注目したいところです。

■経済・産業(エネルギー)

 原発再稼働の議論が盛り上がっていますが、経済界の考えは「バランスのとれた電源ポートフォリオ」を作るべしというものです。ポートフォリオという言葉は耳慣れないかもしれませんが、要は色んなものを組み合わせたものという意味。

 現在、反原発運動が勢いを持っていますが、それによる国民負担の増加や安定供給への懸念が指摘されています。逆に過度な原子力への依存は「原発事故発生如何にかかわらず、バランスのとれた電源ポートフォリオの観点からは問題」であると指摘しています。どういうことかと言うと、例えば全てを火力発電に切り替えたことを考えてみましょう。まず資源調達時のリスクが増大します。特に日本は中東の石油資源に多くを頼っているので、紛争によって安定供給に支障をきたす可能性があります。もちろんそうした事態を避けるには、資源の輸入元を分散させるなど、対策が考えられます。ここで言いたいことは、リスクは分散させなければならないということです。

 本資料では原発について老朽化したものは「原則廃炉」というスタンスを取り、それを促進させるべきだと主張しています。

■税・財政・社会保障

 日本の国債を買い支えているのは日本の銀行ですが、それは別に日本国を守るためにやっているわけではありません。銀行からすれば、それが儲かるというだけのことです。ややこしいところですが、日本の国債は、日本の景気が停滞しているからこそきちんと吸収されているのです。企業としては投資需要が無ければ、資金は内部留保とするより他ありません。銀行の貸しはがしという苦い経験もあり、いざと言う時のために貯めておきたいという欲求もあります。そして貯め込んだ資金は、銀行が運用します。例えば国債の利回りを2%、銀行の預金利回りを1%だとしましょう。そうすると銀行は差分の1%を労せずして得ることが出来るのです。これは資金が投資ではなく貯蓄に多く回っているため可能となります。

 そうした状況の中で、日本の基礎的財政収支は1993年以降延々と赤字体質。2020年までにプライマリー・バランスを黒字化しなければならないとしています。しかしその財政健全化は単に経済成長すればどうにかなるものではないと本資料は主張しています。財政の抜本的な見直しを求め、経済成長を促進する税制を構築しなければならないと言います。たまに政治家が「消費税増税で経済成長」などと言って世間の顰蹙を買っていますが、あれは単なる言葉足らず、もしくは中途半端な聞きかじりによる勘違いです。本来の意図は税制全体の改革であり、消費税はその一部に過ぎません。

 消費税増税を主張しつつも、所得格差の是正には不向きであると認めています。なので同時に所得税には「給付付き税額控除」を導入することで再分配機能を強化すべきとしています。そしてグローバル化に対応するため法人税を下げるべしと言います。この点は少し難しいところで、大企業は一部優遇税制が取られているため、日本の法人税がそれほど高くないという指摘があります。僕としては会社規模や設立年数などを勘案した柔軟な法人税を取り入れるべきではないかと思っています。

 所得格差を表す代表的な数値はジニ係数です。よく民主党は「小泉改革によって格差が広がった」と言いますが、小泉改革の時期はここ数年で唯一、ジニ係数の上昇率が下がっていました。(それでも上昇はしていますが、長期的な傾向で小泉改革がどうという問題ではありません) 平気でデマを流す民主党は日本にとって非常に迷惑な存在ということが分かると思います。


 また、ジニ係数は世代別に見ると、高齢者世帯で顕著となっています。高齢者は貯蓄を切り崩す側なので、これは仕方ありません。つまり少子高齢化によってジニ係数が引き上げられている可能性が高く、単純に格差社会だとは言い切れません。もちろん格差それ自体は存在しており、その対策は必要です。上記で触れた「給付付き税額控除」の導入のため、本資料ではマイナンバー法案の成立を期待しています。

 こうした仕組みを整えるために、地方分権の推進、そしてそのための広域行政体の必要性を主張しています。


 かなりはしょった部分もあり、かつ僕個人の意見も交えたものですが、これで本資料のまとめを完了といたします。長々と付き合ってくださった方に感謝。

2050年 シミュレーションと総合戦略(1)
2050年 シミュレーションと総合戦略(2)
2050年 シミュレーションと総合戦略(3)

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